海よりもまだ深く2016年06月02日 23:23

是枝裕和監督、阿部寛、樹木希林と聞けば、あの名作「歩いても、歩いても」を思い出してしまう私、「そして父となる」はあまりいいとは思わなかったので、今度こそ、と期待感満載で観に出掛けた。結論は、「まあまあ」といったところかな。バスの中のシーン、蝶を追いかけるシーン、「歩いても…」のいろいろなシーンを思い出した。今回は阿部寛のダメ男ぶりが際立っている。ちょっと阿部寛は格好良すぎるかなといったところだが、ダメ男ぶりがなかなかうまい。樹木希林は相変わらずの演技、彼女をみているだけで楽しい。
現代の日本人の日常の会話や生活が随所に織り込まれていて、確かに、みんなこういう感覚で人生を送っているよなあ、と考えさせられる。
樹木希林が、すぐ死んで思い出に出てくるのと、長く寝付いているのとどちらがいい、と自分の末路をダメ息子の阿部寛の顔を覗き込みながら、聞くシーンは、このダメ息子に、まだ、愛情を注ぐ老母の感情が出ていて、印象に残る。
妻に去られても、何とか元のさやに納まらないかと悪あがきする息子がコミカル。質屋のミッキーカーチス、探偵事務所のリリーフランキーもいい。小澤征悦は太ってもう主役を張る顔じゃないので、子憎たらしい敵役がちょうどいい。

「京都ぎらい」2016年06月07日 23:45

京都の中心ではない洛外の嵯峨に生まれ、いまは宇治に住む作者の、「洛内に住む京都人」に対する思い、おもに「差別された恨み」を中心に話が進む。住む地域の差別観などは、どこに住んでいても生まれているし、どうしようもないことだと思うけれども、京都の洛中に住む人たちのそれはよく語り継がれていて一筋縄ではいかないようだ。私も、京都にお嫁に行った東京生まれの女性の苦労話を聞いたことがある。
一番面白かったのは、京都の花街はお寺の坊さんたちでもっているという話だ。高い拝観料、しかも非課税のそれが、その仕組みを支えているそうだ。キャバ嬢に会うためにホステスクラブに通う坊さんもいるとか。
後半は歴史的観点からの京都の話になり、南北朝の時代まで遡ったかと思うと、最後のほうには幕末、そして靖国神社の話題にも及び、話がだいぶ広がった。

バロック音楽とコンテポラリーダンス2016年06月11日 12:05

教会で開かれるコンサート「フランスの風」に出掛けた。
「バロック音楽とコンテポラリーダンスの新たなる融合」というサブタイルが付いている。中世そのもののメロディに合わせ、普段着姿のダンサー(KAN-ICHIさん)が教会の全体を使って、飛び、跳ね、自分の世界を一人で表現する。すごく斬新な試みだと思った。
フランス人のチェリスト2人(ラファエル・ピドー氏とパスカル・ジョパール氏)がなかなか魅力的、チェンバロの植山さんは美人だしフランス語もうまい。
あまり聞く機会のないバロック音楽を堪能した夜だった。特にデュポール「チェロと通奏低音のためおソナタ4番&5番」が印象深い。

コンサート中の雑音2016年06月13日 23:20

友人から「日本モーツアルト協会創立60周年記念ガラ・コンサート」のチケットをいただき、いそいそと上野文化会館小ホールまで出かけた。「ガラ・コンサート」ということで、喜遊曲から始まり、ピアノやヴァイオリンなどのソナタ、オペラのアリア、協奏曲等々、モーツアルトづくしの豪華なプログラムを堪能した。
ただ、残念だったのは、演奏中に時々大きな声をだす女性(認知症らしい)が近くにいたこと、お母さんを楽しませるために娘が連れてきているのであろうか。その娘さんのほうの「黙って,静かにしなくちゃダメ!」という声、これまた相当大きかった。

Kindleで「こころ」を読む2016年06月20日 23:08

Kindle版の読書に挑戦し、Kindleだと〇円という夏目漱石の「こころ」を読んだ。まずKindle版読書の感想だが、慣れないせいか、快適な読書とはいえなかった。読書といえば、まず本の厚さを手で感じながら、「こんな厚い本、どのぐらいの時間で読めるのだろうか」とか「もうこんなに読んでしまった」とか「こんな量しかまだ読めないのか」とか、いろいろ感じながらページをめくっていくわけだが、その感触がまったくない。左端に読み進んでいるページ数がパーセンテージで、「読み終わる時間まで何時間」という標識が出てくるだけで。まず読書しているという感覚が生まれない。まあ、利点は、文字の大きさを自由に変えられることと、辞書にすぐ飛べるところぐらいかな。
> そして「こころ」の感想だが、高校生ぐらいの時によんですごく感動したものだ。それからもう一度は、「『こころ』の人間関係では同性愛が底に流れている」というような解説を読んだ後で、最初の時とは違った感想を持ったことを思い出す。
そして、いま、Kindleで読み終わり、人間の「こころ」の欺瞞は実によく描かれていると思ったが、ストーリーの展開には無理があると思った。ネットでのユーザーレビューを見てみると、「こんな下らない小説が100年経っても読みつがれていることが理解できない。星五つのレビューが氾濫していることもつくづく腹だたしい。目を覚ませ、アホウども」なんて書いている人もいて、笑ってしまったが、そういう気持ちもわからないでもない。
書かれた時代も考慮しなくてはいけないだろうが、ストーリーそのものにはついていけないところ、特に先生の妻に対する気持ちの身勝手さなど多々ある。もっとも、その妻の鈍感さもおかしい限りだが…。しかし人間の「こころ」の「汚い部分」「弱い部分」は十分に描かれていて見事だ。