未來よこんにちは2017年04月28日 23:36

何の予備知識がないままに、チケットをいただいたので、渋谷・文化村のル・シネマに出かけた。この劇場はポップコーンを食べたり飲んだりは禁止だからカシャカシャする音や臭いが皆無でうれしいことだ。
音楽が流れることもなく淡々と続く画面を観ているうちに、これはまるで昔好きだったエリック・ロメールの世界じゃないか、と思う。後でチラシをみたら、監督はロメールの後継者と称されているミア・ハンセン=ラブという女性だそうだから、私がそう思ったのも無理はない。
とにかく、これぞフランス映画という魅力に溢れている。老いた母に振り回され、学校でもデモや学生たちの抵抗に遭いながらも真面目に教師を続けている哲学者の主人公、過去には重みがあった哲学者としての地位もいまや編集者からも軽んじられ、同じ哲学者の夫は浮気をしていることが判明,唯一の慰めは立派に彼女の理想にそって自立した一人の教え子だ。
いろいろな哲学者の名前がでてきたり、幸福論等の難しいテーマが語られるが、そんなことは分からなくても映画を理解するのに問題はない。老人問題、世代による価値観の変化、夫婦の危機など、老いに伴うどこの国にでも共通なテーマが淡々と語られる。 そして突然のシューベルトの歌曲、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌声が響きわたる。だいぶ若い時の声だろうか、画面にぴったり合ってことのほか美しい。
こういう映画はまずDVDなどで観たら良さが分からないままに終わってしまうだろう。映画館で多少眠くなる時があっても観続けてこそ価値が分かる映画だと思った。主演のイザベル・ユベールがいい。
ちなみに、この映画の上映館は渋谷の文化村と称されるところの「ル・シネマ」という劇場、久しぶりに井の頭線の「神泉」で降り、駅前のパン屋でお昼を済ませ、劇場に向かうのに「文化村はこっちで良かったわよね」とパン屋のお姉さんに聞いたら「ブンカムラ?」と怪訝な顔をされ、隣にいた女の子に聞いたが、その子も「シラナーイ」ということだった。わずか400mぐらいのところで働いている人間が知らない「ブンカムラ」、東急の人はどう感じるだろうか。