「収容所から来た遺書」2018年01月25日 23:19

前々回の記事では「至福の時をすごした」と新聞で評された小説を読み、「至福」という言葉についてしばし考えてしまった。
今回の本は「平成時代の名著50」と読売新聞が銘打った中の一冊のドキュメンタリーである。話の展開がどう進むかということは大体理解しているし、結末も分かっている。しかし「本を読む」という時間の経過に「至福の時を過ごす」という思いを抱くという表現がふさわしい時があるとしたら、一晩で読み終わった、この悲劇のドキュメンタリーのほうがずっとそれに相応しいと思った。
極寒のシベリアに抑留され帰国を待ち望みながらもその願いを果たせぬまま病死した山本幡男、彼が書いた母親宛て、妻宛て、4人の子供宛ての遺書を、書き物をもって帰国が許されぬ外状況のもと、戦友たちが手分けして文章をそのまま暗記し、帰国後それを遺族に届けるという夢のような実話である。
そのメインのテーマはもちろん感動的だが、それと同時に地獄のような収容所の中で希望を失わず、回覧板をつくったり、句会を開いたりして、友に生きる力を与えていた山本幡男の生き方が胸を打つ。
戦後11年、日本が驚異的な復興を展開している時期に、極寒の地で苦しみ、そしてそのまま帰国できず無念の死を遂げた多くの人たちのことを改めて想い、深く合掌した。

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