村田沙耶香「コンビニ人間」2016年11月01日 00:28

最近の芥川賞といえば、私にはとてもついていけない話が多くて敬遠しているが、友人の「おもしろいわよ」という声に誘われ、その彼女に「文芸春秋」を借りて読むことした。
まず死んだ雀をヤキトリにして食べたい、と母親のところにそれを持っていく小学生の主人公が出てきて、こりゃまた私にはダメだな、と思う。しかし成人してコンビニのパートで働くことだけが生きがいの36歳になった主人公に、コンビニの仕事なんて、底辺の人間がやることだ、とうそぶく男が登場し、挙句の果てに同居するはめになるぐらいまではなかなか面白く読み進んだ。ただそのあとがいけない。
こんな漫画みたいな成り行きの話、芥川賞に相応しいのだろうか。芥川賞といえば、過激、逸脱、荒唐無稽、それらのどれか一つがいまの社会のアイロニーとして出てこなければいけないのだろうか。石川達三の「蒼氓」、井上靖の「闘牛」みたいな、普通の人のスリリングなお話がまた出てくるようにならないかなあ…

「ロンドンオッカケの旅第1弾」2016年11月15日 19:36

もうこれで最後最後と言いながら、また来てしまったオッカケの旅は、とんでもないハプニングから始まった。
ロンドン、ヒースロー空港でスーツケースを間違ってピックアップし、ホテルまで持ってきてしまったのだ。鍵がなく暗証番号を入力して開けるタイプのスーツケース、ホテルに着いて、いつもの暗証番号をいれたのに、開かない。最近は記憶が確かではないので違う数字を入れたのかと、夫の誕生日や孫の誕生日を入れてみたけれども開かない。そして結婚記念日をいれてみたら、開いた! ああ、よかったと思って開けたら、なんと私の見たこともない洋服がはいっている。「これ、私のじゃない!」と慌てて蓋を締める。そして自分のものだと信じていたものが、同じ色,同じ型のスーツケースだと気がついた。そういう間違いがないようにと付けたベルトまで同じ色だ。ハリソン・フォードの映画に、空港でスーツケースを間違えて事件にまき込まれていく話があったな、なんてことを思いだしたが、とにかく大変なことをしでかしてしまった、と真っ暗な気分になる。
結局、その夜はどうしようもなく、翌朝JALに電話したが、到着便の関係で夕方4時ごろまでには誰も空港には来ないとのこと、途方に暮れる。私のスーツケースもだれかが間違えたのだろうか、その人も間違えたとしたら、空港にはないだろうが、そうでなければ、絶対に空港の中に私のスーツケースはあるはずだと思ったら、じっとしてはいられない。朝かからステントマンと地下鉄に乗って飛行場まで行くことにする。
空港では誰もいないJALのカウンターのそばにいたお姉さんに聞くことから始まり、あっちに行け、こっちに行け、と指示されたとおりにあちこちに動きまわるが、どこの人も分からない。ロスト$ファウンドの窓口でも「そういうのはロスト&ファウンドではない」と諭されてしまう。
結局、親切なインド系のアルバイトの男性が親身にあちこちに電話して、とにかくJALの人で私のスーツケースを保管している人に会うことができた。
本当の持ち主の女性は自分のスーツケースがなくなって、大変心配していたとのこと、そりゃあそうだろう、大変申し訳ないことをしてしまった。そして、その方にはJALがホテルまで届けることになっていることが分かったので、少しホッとする。
やれやれ、やっと自分のものは受け取ることができるだろうと思ったら、なんとパスポートor免許証など、本人だという証明書が必要で、それがないと渡すことができないそうだ。しかしなにも持っていない。
しかたがないので、ホテルまでパスポートをとりに戻ることになった。ホテルのあるコベントガーデンからヒースロウ空港まで往復3時間、それを2回やり、間には空港の隅から隅まで歩き回って、ほとんど一日中飛行機場にいたので、今度は「ターミナル」のトム・ハンクスの気分になったところでやっと自分のスーツケースを受け取ることができた。

「ロンドンオッカケの旅第2弾」2016年11月15日 19:42

着いた翌日(13日)にはATPファイナル、オーツー(O2)・アリーナの天井桟敷のチケットをインターネットで購入していたが、スーツケース事件で諦めるほかはなかった。しかし期待の錦織は翌日の14日で、ある。チケットを買えるかどうかは分からないままに地下鉄で競技場まで向かう。地下鉄の中で隣に座った初老の日本人夫婦は錦織のオッカケでATPツアーはほとんど出かけているらしい。いろんなオッカケがいるものだ。
大きなドームの競技場、すごい人出だが、それほど日本人は目立たない。きょうはワウリンカとの一戦、たしか今年の全米オープン準決勝で負けた相手だ。
当日売りの窓口で、なんと中段1列目の並んだ2席を買うことができ、それが日本でインターネットで公認ダフ屋(VIAGOGO)経由で買った天井桟敷の値段とあまり差が無いのには驚く。(二人で158ポンド)
錦織はサーブがなかなか入らなかったが、ストロークは絶好調。生でみるショットの速さに感動する。
席も最高で、もっと見てみたい気がしたが、格上のワウリンカにストレートで勝ったのだから喜ばしいことだ。錦織はテレビでみるよりずっとかっこよかった。
帰りはRiver Boat に乗り、テムズ川を下って(のぼって?)ホテルに帰り水上からのロンドンブリッジなどを満喫した。ロンドンには日本のPASMOと同じようなOysterというカードがあり、地下鉄、バス、船まで共通につかえてとても便利だ。

「ロンドンオッカケの旅第3弾」「ホフマン物語」のテーマは?2016年11月18日 18:41

今年の春ごろだったろうか、NYのMETライブビューイングの「ホフマン物語」を観た。ストーリーは変てこだが、なんといってもハンプソンの悪役振りがおもしろい。そして音楽が素晴らしく、ことに有名な「舟歌」や美しい合唱、これを今度は生で観たいと思っていたところ、ロンドンのロイヤルオペラハウスでほとんど同じキャストでやることが判明、ステントマンを誘ってみた。彼は、子供のころ「ホフマン物語」の映画(たぶんバレエ映画)の予告編を見、人形のオランピアの首がとれて転がってしまうシーンが忘れられず「あれはどんな話だったのだろう?」とずっと思っていたそうだ。そんな興味があったようで、すぐ「いきましょう」ということになった。
そしてロイヤル・オペラハウスでの「ホフマン物語」、MET版とほとんど同じ歌手なのに、プロダクションも、話の進行もまったく違ったものだったのでびっくりした。何よりも、人形のオランピアの動きが面白い。オペラであんなに客席から笑いが出たのは初めての経験だ。
期待のハンプソンは最初の酒場のシーンから登場、なかなかのダンディぶりだったが、途中から人形のオランピアを生身の人間のようにつくってホフマンをだます役では、ツルッパゲの悪人になって大活躍、多いに観客を笑わせた。
ホフマン物語のテーマは何か? 私はただ音楽がきれいだし…ぐらいの感想しかなかったが、小さい頃から「なぜ人形の首が飛んでいるのか」という疑問をずっと持っていたステントマンの感想はなかなか哲学的である。ホフマンが経験した三つの恋の実態は、外見だけで心がない人形のオランピア、愛よりダイヤを選んだ高級娼婦のジュリエッタ、ホフマンを愛するより自分の芸術を優先したアントーニア、この三つでつまり女なんてみんなこんなものさ、という経験。そしてすべてを受け入れた親友ニクラウスが、実は芸術の精ミューズの化身で「人は恋によって涙によって大きくなる。詩人として生きなさい」とホフマンを諭す…というようなテーマを彼はちゃんと理解し納得しながら観たそうだ。なんだか、意外な夫の姿!
もっとも、小さい頃から映画づけだった彼の記憶にはびっくりすることが多い。今回もロンドンの宿舎がWaterloo Bridgeの近くにあったことで、大昔小学生の頃に観たヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーの「哀愁」の話を聞かされた。死んだと思っていた恋人が戦地から帰還した時、女は娼婦に身を落としていたためWoterloo橋に身を投げてしまう話だそうだ。「そんな小さい時に娼婦なんて職業は分からなかったでしょ?」と聞いたら「分かったよ」ですって、ほんとかいな?
とにかく、期待した以上の「ホフマン物語」で大満足でした。 写真は楽屋口のTH。

「センチメンタル・ジャニーのサンテミリオン」2016年11月19日 08:55

まだ40歳そこそこの頃、ボルドーからレンタカーで着いたサンテミリオンはXmasイブの時だった。深い霧に覆われて、ぶどう畑も建物も全く見えなかったあの日に宿泊した同じホテル、Hostellerie de Plalsanceに30年経ったいま泊まっている。
シーズンオフで観光客はまばらなちょっと寂しい雰囲気のサンテミリオン、その霧はなく、遠くの畑まで素晴らしい景色が見渡せる。
ボルドーからここに来るまでがちょっとややこしかった。レンタカーを運転する気力はもうないので、ボルドーのSaint Jean駅から電車にのってLibourneという駅で降りタクシーでサンテミリオンに到着したわけだが、駅でタクシーに乗るのが一苦労、なんと「TAXI」と大きく表示は出ているが、タクシーの姿はどこにも見えない。しかしその標識の下に「タクシーは次の電話番号に電話してください」と10個ぐらいの番号が書いてあるのだ。携帯電話は持っていないので、駅の中に入り駅員さんに電話をしてくれるように頼んだ。
待つこと30分、すっかり冷えきってしまったが、メルセデスのタクシーで感じのいいモロッコ出身のお兄さんが「スミマセーン」という感じで到着、我々の次の電車で到着したポーランド人のお姉さんと一緒にサンテミリオンに運んでくれた。
お店といえばワイナリーばかりが並んでいる小さな村、しかしレストランは37軒もあるそうだ。きょうのお昼に入ったレストランも宿のレストランも明らかに日本の影響を受けているヌーヴェル・キュージーヌ風で量が少なく、芸術的(?)盛りつけで東京のフレンチレストランのようだった。
写真は Libroune駅前とサンテミリオンの景色